無上甚深微妙法(むじょうじんじんみみょうほう)
百千萬劫難遭遇(ひゃくせんまんごうなんそうぐ)
我今見聞得受持(がこんけんもんとくじゅち)
願解如来真実義(がんげにょらいしんじつぎ)
これ、聞いたことありますか?
お経を読む習慣のある人は概ね知っていると思いますが、一般の方はなじみがないでしょうか。
この文言は、どの経本でもお経の前に唱えるように載っている「開経偈(かいきょうげ)」と呼ばれる「偈(げ)」です。
「偈(げ)」って何?ですよね(笑)
「偈(げ)」という言葉は、『仏の教えや仏・菩薩の徳をたたえるのに韻文の形式で述べたもの』と説明されます。
多くの仏教用語がそうであるように、この言葉の「元」は「gatha」というサンスクリット語の音写(文字通り音を写した言葉)で、カタカタ読みにすると「ゲタ」とか「カダ」になってそれが「偈陀(げだ)」「伽陀(かだ)」と音写され、略して「偈」です。
さて、この偈文の第二句に注目しましょう。「百千萬劫難遭遇」と書いています。“劫”とは、気の遠くなるほど長い時間のことで、それが百千万劫となっていますから、とんでもなく長い時間を表現しています。
意訳すれば『それだけの長い時間を経ても仏教の教えに巡り遭うのは難しい』という意味になろうかと思います。
一般の方からすると「そんな大袈裟だなあ(笑)」と感じるのが普通の感覚だと思いますが?!我々修行者は、リアルにこの言葉の重みをあらゆる場面で痛感しています。
ちょっと具体的な話をしましょう。
先日の記事で、8日間の「重要な行」を萬行したと書きました。
実は今日、修行させていただているお寺に行っていたのですが、そこでお会いした多くの上座の方々(平たく言うと先輩修行者の方々)全員から「無事に行が終わって良かったね」と暖かいお言葉をかけてもらいました。
これは決して「社交辞令」で言っていただているのではなく「心からそう思って」という感情がこもった言葉なのがよく分かりました。
では、なぜそんな「心から」そんな言葉をかけていただけたのでしょうか?
「その行の厳しさ」を先にに経験していて分かっているからということももちろんあると思います。
ただ、それ以外に座の方の言葉の裏に「最後までアクシデントに見舞われなくて良かったね」というニュアンスを多分に感じました。
例えば……
「台風で交通機関がストップして、指定の時間に行をするお寺にたどり着けなかった」「急にどうしても避けられない仕事が入ってしまった」
「直前、もしくは行中に体調を壊してしまって行が続けられなくなった」
e.t.c.……
という理由で行を終えることができない可能性もあった訳です。
今、例に挙げたアクシデントは全て不可抗力で避けられないことで、私に落ち度がある訳でもないものばかりです。でも、仮にこのようなアクシデントが現実に起きて、私が行を終えることができなったとしたら……
行の世界では「じゃあ、日にちを替えてあらてめてやろうか」なんて簡単なことには、実はならないんです。
こんな時、仏教(特に密教?)はこんな解釈をします。
「この修行者はこの行に縁がなかった」
「この修行者はこの行を行えるだけの機根がない」
最悪、このような理由から、二度とその先に進めないということが現実として起こり得ます。
また申し少し皆さんの馴染みのある言葉を使うなら「この行者にこの行を受ける縁がなかった」になりましょうか。仏教にとって「縁」という言葉が如何に重要な意味を持つことは今更私が言うまでもありません。
多く方が日常使いもする「縁がない」というセンテンスの重みは皆が思う以上に圧倒的に大きなものです。
だから諸先輩方の言葉は、冒頭に紹介した『仏教の教えに巡り遭うのは難しい』という開経偈の偈分の意味を真剣に意識して上記した「よかったね」という言葉をいただけたのだと想像します。
8日間の行中、ただ「決められた行」をこなすだけでも確かに十分すぎるくらいに厳しいのですが、それとは別に24時間、常に「アクシデント(我々は「魔」ということばを好んで使いますが)」に入られないよう気をはっていること、つまり行中は24時間全ての時間が「行」であるという認識で、なんとしても「行を終えること」に集中しなければなりませんでした。
だからこそ、例えどんな形にせよ(条件付きでだと前の記事で書きましたね:汗)口をそろえて諸先輩方が「よかったね」という言葉をかけてくださったのは「ちゃんと終えることができた」ということの重みを知っているからこそだと思います。
無上甚深微妙法(むじょうじんじんみみょうほう)
百千萬劫難遭遇(ひゃくせんまんごうなんそうぐ)
我今見聞得受持(がこんけんもんとくじゅち)
願解如来真実義(がんげにょらいしんじつぎ)
今日もこの言葉を噛みしめて、行が無事に終わったことにこころから感謝するのです。
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