准胝院のブログ

八王子市で准胝仏母を本尊とする天台寺門宗祈願寺院「准胝院」のブログです。准胝仏母祈願、不動明王祈願、人型加持(当病平癒)、先祖供養(光明供)、願いを叶える祈願(多羅菩薩)、荼枳尼天尊(稲荷)の増益祈願等

原作版「風の谷のナウシカ」にみる成仏のシーン

 つい先日、新歌舞伎「風の谷のナウシカ」が地上波で放送されて話題になっていましたね。

www.nausicaa-kabuki.com

 このナウシカ、実は「アニメ版でなく原作版」から作れれているんですね。

 驚きました。

 念のため簡単に解説しておくと、原作(漫画)版の風の谷のナウシカはアニメとは別物です。

 登場人物、国名などは一部同じですが、アニメ版は全7巻ある漫画版の僅か2巻の途中までを改変した(分かりやすく平易にしている)アニメオリジナルのストーリーです。

 宮崎駿作品を語らせたら右に出るものはない岡田斗司夫氏は「漫画版ナウシカ」が日本史全体だとすれば「アニメ版ナウシカ」は真田丸のようなものと語っています(当時、大河ドラマが「真田丸」放送中ゆえの表現です)。

youtu.be

 つまり「ほんの一部を切り取って面白く作り変えた作品」というイメージを持ってもらえれば概ねOKです。

 さて今日はせっかくなので、仏教ブログらしく?この漫画版ナウシカ出てくるとても印象的な「成仏のシーン」を紹介してみようと思います。

 仏教徒が「成仏」という用語を用いるなら、慎重になるべきなのは重々承知していますが、ここでは「成仏とはなんぞや」という議論をするわけではないので気楽に記事を読んで頂ければと思います。

 

 「そのシーン」……とても感動的なんですよね。私は思わず涙がでましたから。

 

 そう言えば、所謂「知識人」と言われる人たちに漫画版の(アニメではない)「風の谷のナウシカ」を絶賛する人が多くいます。例えば「知の巨人」立花隆氏(某党の党首ではないですよ)、民族学者の赤坂憲雄氏、経済学者の野口悠紀雄氏etc……

 そして「知識人が好き」ということからご想像いただけると思いますがとにかくこの漫画、「話が難しい」ですね。

 一般の「漫画を読む」という気楽な気持ちで読み始めるとおそらく途中で挫折します(笑)。

 だから漫画版のナウシカを読むときはとにかく「腰を据えて」「じっくり」そして「覚悟して」読むことがなによりも重要なポイントです。

 ただ、がんばってじっくり最後まで読めば、その作品の奥深さに震撼することと思います。この作品を読めば宮崎駿監督は「天才」ではなくもはや「怪物」であることを思い知らされる、そんな畏怖すべき作品です。

 さて前置きが長くなりましたが、この漫画版ナウシカに出てくる「成仏」の場面の解説をしていきましょう(以下ネタバレありなので未読の方は注意してください)。

 漫画版のナウシカはアニメ版と違うところに「超常の力」と言われる、いわば「テレパシー」や「念力」などを露骨に使うシーンが多く登場します。
 またこの作品は巨大宗教国家(土鬼:ドルク)と巨大軍事国家(トルメキア)との戦争が舞台になっています(これだけでも凄い設定ですね)。ちなみにナウシカが暮らす風の谷はトルメキアに自治を認められているトルメキアの属国です。

 その宗教国家土鬼の王であり、宗教的指導者でもある神聖皇弟「ミラルパ」は、ナウシカの力を恐れ、彼女を亡きものとするため何度も「体外離脱(幽体離脱)」し、「霊」となってナウシカ襲います。

 そのミラルパの姿はドロドロした黒い闇に包まれた禍々しい姿で描かれます(もののけ姫の「祟り神」に近いイメージです)。

※以下、引用を多くしますが、下記サイトを参考にしています。

maruwoblog.com

↓ミラルパ

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霊の姿

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出展:風の谷のナウシカ 宮崎駿著(徳間書店

  しかし慈悲の人、ナウシカには多くの守護者に守られており「ミラルパ」はナウシカを簡単には捉えることができません。
 物語の後半、この神聖皇弟「ミラルパ」は、兄の神聖皇兄「ナムリス」に暗殺され命を落としますが、死してなおミラルパは妄念となってナウシカを追いつづけます。
 そしてナウシカがオームの虜になって「抜け殻」となり深層世界に飛ばされてしまったところで、「無防備」となったナウシカをミラルパの霊(闇)が襲います。

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出展:風の谷のナウシカ 宮崎駿著(徳間書店

 しかし、ナウシカはミラルパの闇を「高貴な力」で弾き飛ばし、難を逃れます。すると「闇」をナウシカによってはがされたミラルパはなんとも弱々しく怯えた幼子のようにも見える老人の姿になってしまいます。

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出展:風の谷のナウシカ 宮崎駿著(徳間書店

 そこからナウシカは自分の身体に戻るべく深層心理の旅に出るのですが、ここで怯えて動けないでいるミラルパの手を取って一緒にその旅に誘います。

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出展:風の谷のナウシカ 宮崎駿著(徳間書店

 自身の深層心理の中をミラルパと旅することでミラルパの心は回復し……

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出展:風の谷のナウシカ 宮崎駿著(徳間書店

 ついにミラルパは笑いながら楽園に消えていくというシーンが描かれます。

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出展:風の谷のナウシカ 宮崎駿著(徳間書店

  これが上述した「成仏」のシーンです。人によっては「これ成仏のシーンなの?」と思われる方もいるかもしれませんが、その後にこの「ミラルパ」の参謀であった僧にナウシカが「ミラルパは成仏した」ことを伝えるシーンがあります。

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出展:風の谷のナウシカ 宮崎駿著(徳間書店


 私はあれほど「恐ろしい闇」だった「ミラルパ」なのに、根っこにあったのは「無垢で気の弱い老人の姿」であったことが衝撃でした。きっと彼を恐ろしい闇にしていたものは「混沌とした世界」「戦争という厳しい境遇」によって背負わざるを得なかった「業」を身にまとっていたからなんだ、ということが分かる描写です。

 そしてその業を全て手放すことができたことで「成仏する」という描写は間違いなく仏教的な解釈だと思われます。参謀だった僧が「あの宿業の人が……」というセリフが泣かせますね。
 興味深いのはナウシカの深層心理がそのまま「あの世」に繋がっているという描かれ方をしているところ。これはユングに代表される深層心理学では定番の世界観ですがそれを「作品」としてリアルに描ききるところがさすが宮崎監督だと思いました。

 私はこの「成仏」のシーンに感動したのですが、また別にこれがあまりにリアルに感じたので、実は人間は誰でも「ミラルパ」と同じように闇ともいえる「業」を背負って生きて、そして死んでいくのかもしれないと感じ入りました。

 ということで、是非皆さんも漫画版のナウシカを実際にて手に取って読んでみてください。一生に一度は読まないと損する作品間違いなしですよ(笑)

 

 

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